【レアル・ベティスvsセビージャFC マッチレポート】

ラ・リーガ第三節、レアル・ベティスvsセビージャFC。セビリアダービーと呼ばれる伝統の一戦は、ここまで一分け一敗ノーゴールのベティスが一勝一分けのセビージャを本拠地に迎えてのキックオフとなった。ダービーらしく白熱したこの試合で、ベティスが取った戦略、勝利に至った原因を分析していきたい。

この試合のベティスは、二試合スタメンだったフランシスをベンチに置いてテージョを右WBで起用。対するベティスは前節負傷交代のエスクデロに代わってアラーナが左サイドで先発となった。

実際に試合を見た方にはお分かり頂けるはずだが、後半の65分までとそれ以降では、試合展開が大きく変わる。よって今回は、それ以前とそれ以降で節を分けて分析を行いたい。

 

【65分以前 ハイプレスによって生じた異なるスペース】


前半終了時点で64%、試合全体で63%と1,2節に続いてボールを保持していたベティスは、セビージャのハイプレスを逆手に取った効果的な攻撃を見せていた。まずはフォーメーションに注目する。冒頭の選手紹介時に3-5-2で表記されたスタメンだが、攻撃時の配置は至る所で左右「非」対称だった。

まず左WBのフィルポと、右WBのテージョ。フィルポはWBと言うよりもSBのような、最終ラインの3人よりわずかに高い位置に陣取っていたが、テージョはWBよりも一列前、ウイングアタッカーのように大外に張るポジショニングを見せている。高さが明らかに異なっているのだ。

中盤のカナレス、グアルダードの二人にも同じことが言える。カナレスがセビージャの左CBのセルジ・ゴメスから繰り返しマークを受けていたのに対して、グアルダードは主にボランチのバネガにマークされていた。
これはそのまま二人のポジショニングの高さの違いを示しており、グアルダードがカルバーリョと2ボランチを形成するようなポジションをしばしば取っていたのに対して、カナレスは乾と2シャドーとなるようなポジショニングも見せていた。

そして2トップとして表記されていた乾とロレンの役割もまた、大きく異なっている。ロレンは主にセビージャ3バックの中央に位置するケアーにデュエルを挑み、ハイボールをヘディングで競り合ったり、裏へのボールに抜け出したりといったプレーを見せている。しかし乾が空中戦を挑む場面は自陣深くからのクリアなどを除いて滅多になく、ライン間、あるいは3バックの外側、左サイドに流れてボールを受けるシーンがほとんどだった。

これらのことを踏まえて、ベティスの攻撃を分析してみる。ベティスは主に右サイドからビルドアップを行っており、ほとんどのチャンスが同サイドから創出されていた。

ポイントとなったのは、ベティスの右シャドー、6番のカナレスと、セビージャの左CB3番のセルジ・ゴメスだ。6分58秒のカナレスがパスを受けたシーン、11分10秒のGKにパスが出たシーンなど、比較的低い位置にカナレスが降りてきているシーンであっても、ゴメスは積極的に前に出てカナレスをマークしている。この守備はクーリングブレイクやハーフタイム後でも変わらなかったが、ベティスは主にビルドアップの局面でこの現象をうまく活用していた。

 

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例えば後半の51分34秒、ロレンへパスが出たシーンでは、カナレスにゴメスが、右ウイングのテージョにアラーナがついて来た結果、その二人の裏のスペースへのボールでビルドアップに成功している。また61分23秒にロレンがパスを受けたシーンでは、カナレスがゴメスを最終ラインから引き出した上でテージョが裏に抜けることで、ライン間で受けにいったロレンに対してケアーやアラーナがプレス出来ない状況を作り出している。

そしてこれらパスを繋ぐ丁寧なビルドアップにおいてだけでなく、むしろそれ以上にロングボールによって、このカナレスの動きは生かされていた。例えば前半5分15秒のバルトラからのロングボールでは、カナレスがゴメスとアラーナまでも引きつけて最終ラインで数的優位を作り出している。また前半アディショナルタイム1分14秒時点には、カナレスがゴメスを引きつけてサイドに流れ、その裏にロレンが走り込んでいる。

またこのようなロングボールは、チャンスを創出するだけでなく、ハイプレスのハードルを上げるという点でも大きな意味を持っていた。積極的にロングボールを蹴っていくベティスCB陣に対してもセビージャは果敢にプレスをかけていたが、ロングボールを蹴らせず奪い切るためにはプレス強度を上げざるを得ず、体力だけでなくメンタル面でも消耗が激しくなる。
前半だけで12のファールと3枚のイエローカードを記録しているのは、配置で不利を強いられながら積極的にプレスを駆けにいったことの証左とも言えるのではないだろうか。

ただこれらはあくまでビルドアップでの優位であり、実際にゴールを脅かしたのは裏へのロングボールが直接通ったようなシーンだけと言っても良いだろう。グラウンダーのクロスやハーフスペースからファーポストを狙うクロスなどは健在だったが、決定的なシュートまでは至っていなかった。65分までにゴールを奪えなかった事実からも分かるように、依然として崩しの局面には課題を抱えていたと言って良いだろう。

 

そして前半、より多くの決定的なチャンスを作り、より多くのシュートを放ったのはセビージャの方だった。次はその攻撃について分析しよう。

互いにハイプレスをかけていたという点で、セビージャの守備とベティスの守備は似ている。セビージャのハイプレスに対してベティスは、カナレスへのゴメスの積極的なアタックを利用したビルドアップを行っていたが、ベティスの最終ラインにはゴメスに当たる役割を担うプレーヤーはいない。

CBの3人がボールを持っていない選手に対して飛び出すシーンはあまりなく、最終盤の守備人数は基本的に3人以上に保たれていた。そこでセビージャが利用したのが、ライン間のスペースである。前線の選手が積極的にプレスをかけるベティスのディフェンスでは、カルバーリョとグアルダードがボランチへのプレスを担当する。よって対面のボランチの動きによっては、最終ライン前のスペースが開いてしまうのだ。

実際前半16分45秒、リスタート直後のシーンで映像を止めて確認してみると、低い位置をとっているボランチ、10番のバネガにプレスがかかっておらず、カルバーリョとグアルダードはともに7番のロケ・メサに意識が向いているように見える。そしてパスを受けたバスケスは、その二人の裏、ラインの間で完全にフリーで受け、悠々と前を向いて攻撃を開始している。

セビージャの守備ではこの位置にCBがプレスにいくのだが、ベティスでは空いたままなのだ。ライン間はサイドの裏よりもゴール正面に近く、チャンスに直結するエリアと言える。実際にセビージャはより質の高いチャンスを創り出していたように見えるが、結果的にはゴールを奪えなかった。

両チームとも守備の穴となる部分が存在し、また相手のそれを利用してチャンスを創り出していた。しかし、そこを延々と叩かれ続けていたという印象でもない。ハイプレスによってパスの出し手にプレッシャーがかけられていれば、正確なパスは中々出てこない、というのが原因として考えられるだろう。

つまりベティスはライン間に下がって来るフォワードを、セビージャは最終ラインを一列に揃えることを捨ててハイプレスをかけパスを出し辛くすることで、チャンスを作られながらも無失点で抑えていた、と言えるはずだ。

また更にポイントとして挙げるべきは、ハイプレスの本来の恩恵であるショートカウンターがあまり見られなかったということだ。前述の通りパスの正確性を落とすところまでは一定の成果を上げていたハイプレスだが、奪い切ってチャンスを作るまでには達していなかった、ということになりそうだ。

その原因はもちろん個々のテクニックに帰するものも大きいだろうが、戦術的な観点で評価するなら、早めの判断でロングボールを蹴っていたことが互いにリスク回避に繋がっていたのではないだろうか。

 

【65分以降 数的不利から生まれたゴールと課題の残る意思統一】

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65分、ロケ・メサが二枚目のイエローカードによって退場となった。この判定についてはさておき、それぞれ数的不利、数的優位となった両チームの戦術は当然変わってくる。特にセビージャは、前線からマンツーマンで嵌めていくプレスがほぼ不可能となった。数的不利でマンツーマンの守備を仕掛けていては相手プレーヤーを一人必ずフリーにしてしまう。

実際先制点を取られる前までの時間帯では前半に比べプレスをかけ始める高さが大きく違っており、積極的に飛び込むことのない「退いて守る守備」になっていた。ここで注目したいのは前半に引き続き存在していたサイドの非対称性である。

セビージャの守備陣形において、最終ライン前の二人が左に寄っているのだ。この現象に関しては、ベティスの攻撃が右に偏っていたことで説明をつけることが出来る。ホアキンが投入される前、つまり乾が右サイドに移る前はこの偏りを突こうと乾が何度かライン間に下がって来てボールを呼んでいたのだが、そこからさらに攻撃が展開されることはなかった。

ここまでほとんどの攻撃が右サイドから行われていたことを考えると、これはむしろ自然と言えるのかもしれない。実際のところは分からないが、戦術を変えてバランスを崩す危険を冒すくらいであればそのまま右サイドから攻めてしまえばいい、という思いがあったのかも知れない。どちらにせよ右サイドから崩しに入った攻めが多かったのは事実である。ゴールの場面も、右サイドに展開後ハーフスペースからの速いクロスにホアキンが合わせたものだった。

ポジショニング面の優位性や戦術のかみ合わせよりも、退場に伴う数的不利によって下がらざるを得なくなったことと、そのシーンでのマンディのクロスの上手さやホアキンの上手い抜け出しから生まれたゴールと言えるのではないだろうか。

 

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しかしこのゴール後、ベティスの守備に目を移してみると、ハイプレスの随所で前半よりも粗が目立ってしまっている。83分10秒あたりからのハイプレスでは内側へのパスコースを消す選手がおらず、そこに通った時に十分にプレスもかからないため、最終的にサイドへの大きな展開を許している。

一分後の84分10秒辺りでも、フィルポのプレスが少し遅れたことや、ホアキンが選手につけていないこと、CBのカバーが遅れたこと、そしてライン間で待っていたシルバに中盤の選手が付けていなかったことなどから、ボールを運ばれてしまっている。

本拠地で数的不利の相手に対して1点をリードしたことが心理面に影響を与えたのかも知れないが、ハイプレスであればしっかりと全員でプレスをかけなければ逆に後ろのスペースを突かれるなどの危険がある。割り切って引く選択肢もあったかも知れないが、どちらにせよ全員の意思統一が十分に出来ていなかったのではないかと思える。相手が一人少なかったことが大きくピンチとして顕在化するには至っていないが、この辺りは課題として挙げられるだろう。

 

【今後の展望】

生え抜きのベテラン、ホアキンのゴールによって本拠地でのダービーに勝利したベティスだが、シーズンでまだ1ゴール、しかも数的不利の相手から奪ったゴールで一勝したのみである。この勝利によって上向きになったであろうメンタルを損なうことなく、成績も上を向かせることが求められるだろう。

国際Aマッチデーの後は、ヨーロッパリーグがスタートする影響もあり約三週間で7試合を戦う過密日程となっているが、ここまでベンチスタートだった選手や新加入のロ・チェルソにも当然チャンスが回って来るはずだ。今後のベティスには、より一層注目していきたい。


記事執筆

【hana】

大阪府在住/大学二回生/19歳
サッカー経験ゼロ
将来の夢:大舞台で自らの理論を実践すること
Twitter:https://twitter.com/hanasoccer4