Calisthenics(カリステニクス・キャリステニクス)を聞いたことがあるだろうか。
自重トレーニングをベースにしたトレーニングであり、その延長線上に競技スポーツとしての側面がある。ヨーロッパを中心に世界各国で市場やコミュニティが少しずつ成長してきている一方で、日本ではまだまだ知られていない。そんな競技に、KENTAROさんは向き合っている。
打ち込めるものを探していた中で出会った
「大人になってから、何か打ち込めるものが欲しかったんですよね。もともと目立ちたがり屋だし、これだっていうものをとことん極めたいと思う性格でもあって」
大学を出た後は、俳優を目指していた時期もあった。ただ、思うようにはいかなかった。体を動かすことは好きだったし、周りとは違うもので自分を表現したい気持ちもあった。そこで向かったのがフィットネスの世界だった。
取り組んだのは、CrossFitとフィジーク。CrossFitは、ウェイトリフティング・ジムナスティクス(自重トレーニング)・有酸素運動の3つの動き全てを組み合わせて行う競技スポーツで、幅広い身体能力が求められる。この経験からウェイトを扱うよりも自分の体を使って鍛える方が好きだと気づいていったという。
「クロスフィットは全てを網羅してるから経験してよかったです。有酸素系はとにかく、ウェイト系の種目は好きになれませんでした」

その後はフィジークにも打ち込み、大会に向けて本格的にボディメイクを行った。パーソナルトレーナーをつけ、食事管理も徹底した時期があった。だが、2020年に訪れたコロナ禍をきっかけに大会自体が中止に。それまで積み上げてきたものの行き場がなくなってしまった。
そんな中、何をやればいいのかわからなくなっていた時期にYouTubeで見つけたのがCalisthenicsを発信している人達の動画だった。
「これなら自分に合ってるかもしれないって思ったんです。それがきっかけでした」
もともと自重での動きが好きだったこともあり、感覚としてはすんなり入ってきたという。幼少期から競泳を続け、ストリートダンスも経験してきた。種目は違っても、自分の体全体を連動させる感覚はずっと持ち続けていたのだろう。
挑戦している競技は「筋肉番付に近いイメージ」
Calisthenicsがより多くの人に知られたタイミングはコロナ禍の時。家でトレーニングをする”宅トレ”が流行った勢いで、筋トレ手段の一つとして知っている人はいるだろう。だがその先に競技として存在することは全く知られていない。
「ストリートダンスにPoppinやLockin、Breakin、HouseなどのダンスジャンルがあるようにCalisthenicsにもジャンルがあるんです。それぞれで大会やルールがあって細分化されています」
鉄棒や平行棒を使って技の構成や完成度を競うバトルもあれば、懸垂や腕立て伏せなどの基礎種目を組み合わせた、メニューの合計タイムを競うバトルもある。KENTAROさんが取り組んでいるのは後者のタイプだ。
「昔テレビでやっていた筋肉番付に近いです。ですがもっとルールが厳しくて、いかに早く、正確に、バテないよう完遂できるか。みたいな競技です」
動き自体はジムや公園で見かける基礎トレーニングだ。だが、競技となると見え方は変わる。フォームの正確性、ペース配分、駆け引き。シンプルな動きで競い合うからこそ、日々の練習の差がはっきり出る。

競技を初めてから今に至るまで
「入り口はフリースタイルでした。魅せ合う競技なんで、アーバンスポーツに入ります」
※アーバンスポーツ:スケートボードやBMX、パルクール、ブレイキンなど、街中や小スペースで楽しむスポーツの総称。音楽やファッションとも融合し、自己表現やカルチャーとしての側面を持つ。
別名で”ストリートワークアウト”という言葉で浸透してきている。そして日本に限らず世界的に見てもこちらのジャンルの方が人気なのだという。
「技を習得するには時間と根気が必要です。環境も度胸も。僕はそのために基礎練をずっとやってたんですけど、やってるうちに練習の奥深さに魅了されました。例えば、懸垂一つとってもいろんな角度からのアプローチがあって、それをやるのがすごく楽しかったんです。楽しすぎて他のことがどうでもいいぐらいハマりました。そして気づいたら大会を目指していました」
聞くところによると、2026年4月時点でのCalisthenicsの全てができる専門のジムは日本で1箇所しかないという。大阪にある『KAMUI PARK』という施設だ。

「最初は懸垂が10回前後しかできなかったです。でもがむしゃらにやってたら20回が余裕でできるようになってきて、そのまま試行錯誤しながらやってたら30回に到達できてって感じです。ある程度回数こなせるようになってくると技術のことを考えます。肘を数ミリ曲げて行う30回と伸ばし切ってやる30回は全くの別物なんです」
目標回数に到達するのがゴールではない。その動作において正確性を追求するとなると奥行きが増す。見た目以上に細かい。そこに面白さがあるのだという。

初めて大会に出たのは2023年、大阪で開かれた大会だった。Strengthバトル。結果は4位。表彰台には届かなかった。
「悔しかったですね。でも、その悔しさがあったから次につながったと思います」
数ヶ月後、再び大阪で大会に出場する。今度はEnduranceバトル。日本で初めての開催だった。そこで初めて優勝する。
「優勝できた時は本当にうれしかったです。夢って追い続ければ叶うもんだなって。あの時にこれをやっていこうって決めました」
積み上げてきたものが競技の中でしっかりと形になった。その手応えがあの言葉につながったのだろう。
競技人口は日本だとほぼ皆無。上を目指そうとすると、自然と海外に目が向く。Enduranceバトルの大会はアジア圏では日本以外にはないという。競技スポーツとしての認知もカルチャーも、ヨーロッパが一歩も二歩も先を行く。
「出られる大会があればどんどん挑戦していきたいです。最近は南米で開催されてる大会が気になっています。」
目線はすでに、次の舞台に向いている。

海外ではCalisthenicsが身近な存在に
成績や大会の話を聞いているうちに、話題は少しずつ「この競技をどう伝えていくか」に移っていった。しかし、その方法は明確に定まっていないのだと言う。
「まだ模索中です。でもお金をかけずに強くなれるし自信もつく。体操選手みたいな身体にもなれる。最強の趣味になると思ってます」
日本にも自宅や公園で自重トレーニングを行う人はいる。健康維持のために取り組んでいる人もいれば、気分でやってる人もいる。ただその人たちが”Calisthenics”と認識して行っているとは限らない。
「自重トレーニングって何かをする手段として囚われてしまいがちなんですけど、実はその先にこういう競技があって、こういうコミュニティがあることを知っていただければ鍛えていく先がイメージできるし、もっと競技人口も増えると思うんですよね」

参入障壁はとても低い。ジムに通わず無一文でストリートからアスリートを目指せる。その思いは、環境の話にも広がっていった。
海外だと、高さのある大人用の鉄棒や平行棒が設置された公園がたくさんある。海辺にトレーニング設備が並ぶ風景も珍しくないらしい。”鍛える”という概念が日常のすぐそばにある。一方で日本では競技の入り口になるような環境が圧倒的に少ない。鉄棒はあっても競技練習をするには高さが中途半端であったり、そもそも競技用として作られていないのが現状だ。
「環境があればやる人は集まるし、コミュニティも生まれる。そうなると自然とその先の認知にも繋がっていくと思うんです」
Calisthenicsの競技スポーツを広めたい。そう聞くと、トップ選手や大会の話を想像しがちだが、見ているのはもっと手前の部分でもある。家でトレーニングしている人、公園で身体を動かしている人、そこからもう一歩先に進みたい人。そういう人たちが自然と競技につながれる環境を作りたいのだと思う。
「広まって欲しい気持ちはありますけど僕はその道のプロではないし、プレイヤーとして挑戦し続ける自分でありたいと思っているので、これからも挑み続けます」
広めたい強い思いもあるが、競技者として立ち続けることを優先する。
「ここまで記事を読んでくださった方の体を動かすきっかけになれたら嬉しいです」
打ち込めるものを探していた先に、Calisthenicsがあった。
今は競技者としてこの競技に向き合い続けながら、SNSでその過程を発信している。その姿が、誰かの入口になっている。

プロフィール
KENTARO(古藤健太郎)
競泳とストリートダンスを経験し、30歳からCalisthenicsを始める。その後、約2年後に開催された日本大会にて、初めて優勝する。現在は清掃員として働きながらも現役選手として世界大会を視野に入れながら日々トレーニングに励んでいる。https://www.instagram.com/kentaro__sw
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