【大学サッカー部に改革をースポーツ観戦文化普及への挑戦ー】

プロスポーツにおいて集客は最大の課題であり、Jリーグの各クラブも様々な取り組みを行っている。今回は朝鮮大学校サッカー部のマネージャーとして集客に挑戦した孫勝基氏にインタビューを行った。


【スポーツの文化を普及するために】


ーはじめまして。現在は何をされているのですか?

朝鮮大学校サッカー部にて、広報・マネージャーを努めています。

ーサッカーはもうプレーされていないのですね。

大学3年生の途中までは選手をしていました。1年生の頃からAチームにいながらもベンチが続き、3年生になって出始めたのですが、それと同じくらいのタイミングで辞めました。

ーなぜ辞めたのでしょうか?

3年時に選手を辞めるかどうか迷っていました。そのきっかけは、マネジメントを学び始めてサッカー部の問題点が見えてきたことです。自分には怪我もありましたが、もっとチームをサポートして改善したいという想いがありました。選手を辞めたことの後悔はありません。

ーマネジメントとはどのようなことでしょう?

始めはスポーツ原理、チーム運営に興味持ち始めました。それから大学の教授に相談して書籍を紹介してもらい、半信半疑で読み始めたけど見事にハマりました。それまでサッカー一筋で机に向かうことはなかったのですが、その日から毎日勉強です。勉強すると同時に、知識をサッカー部でアウトプットしたいと思い、選手を辞めてマネージャーに転身しました。

ー今はどのようなことをしているのですか?

サッカー部にて「勝利」「普及」「収益」という面のトリプルMissonプロジェクトを行っています。スポーツビジネスを学びながら、スポーツをするみるささえるという文化を根付かせるために活動しています。サッカー部の活動は主に集客活動です。

ーそれまでのサッカー部の現状を教えて下さい。

スポーツ「みる」「する」「ささえる」文化が根付いてない。プレーすることがスポーツだという雰囲気が蔓延していることがあります。スポーツ文化を朝鮮大学校に根付かせることが必要だと思いました。そして、集客が不足していることが問題ですが、試合環境はあまり良くなく、観客席や得点板がない、そして観客を誘導する導線もなかったりと試合環境としては何も揃っていませんでした。集客やプロモーションへの理解がなく、行動にも移せていなかったです。

ーそれまで集客への理解がなかったのですね。

それでも選手の時代には、集客は当たり前で観客は来ると思っていました。自分が1年生の頃は、4年生で活動してる人がいたので、その方が卒業すると同時に観客数がぐっと減りました。その人たちが広報活動していた事に気づいて、自分もできるのではないかと思いました。

ートリプルMISSIONプロジェクトとはどのようなプロジェクトですか?

普及の面を見つめ直して好循環を起こしていくことです。普及を強化して、集客が増えて、そこから試合の環境が向上する。選手のモチベ-ション、パフォーマンスが上がって、チームがそこから勝率アップをして、強いチームを目指そうというものです。

ーどのような狙いがありますか?

観る文化をもっと普及したいということです。スポーツの特別な力がある。在学生が一つの場に集まってその場を共有することで、大学に対する愛着が上がる。スポーツを通して好循環を作り、大学のブランド向上にも繋げたいという狙いがあります。


【全国の子供達のトップ集団であるために】


ーまずはどのようなアクションを起こしたのですか?

まずは理念とビジョンを決めました。これは朝鮮学校特有かもしれませんが、小中高は全国にたくさんありますが、大学は1つだけです。高校生まで学んだ子が最終的に大学に来るシステムになっています。もちろん別の選択肢を持つ人もいますが。
その中で、サッカーの占めるエネルギーは高いです。在日コリアンはマイノリティで存在をあまり知られていません。自分たちのアイデンティティ発揮できるのはサッカーで思い入れも強く、人口も多い。その中で大学校は全国の子どもたちのトップ集団であることを理念に掲げました。

ー理念をもとにどのような活動を行ったのですか?

より多くの人に共感を得られるように、地域の朝鮮小学校への訪問活動をしました。そのきっかけは、自分が子供のときから大学への憧れを持っていたことです。Jリーグへの選手も排出していて、今の子は憧れを持っているのか確かめることもありましたし、子どもたちにもサッカーを続けて欲しいし、選択肢を一つでも増えてほしいと思っていました。

ー選手達の反応はどうでしたか?

選手たちも学校に行くことで、子供達からの関心が高いことを選手も気づき、ただの学生ではないことを感じてくれたようです。選手の意識を変えることができて良かったと思います。

ー他には集客に関して取り組まれたことはありますか?

プロモーションに力を入れるようになりました。SNSを動かしたり、ポスターも学内に貼りました。活動はマネージャーや学連に協力してもらい、5~6人で力を合わせてやりました。
そして、宣伝で力を入れたのはSNSやポスターもありますが、特に力を入れたのはステークホルダーとの関係構築です。大学にとってスポーツは大事です。関係者の方に会いに行って、プレゼンをしたり、学内の影響力を持つ人を巻き込みました。やはり1人だと限界あるのでサッカー部外の人にも話してこの活動に取り組みました。

ー反応はどうだったのでしょう?

この活動に関心を得られましたが、注目されることで批判も伴うこともありました。それでも、プロモーション、普及の面で強化しながら、グラウンド環境の向上にもステークホルダーが絡んでいます。OBの方に話に行って、観客スタンド、電光掲示板を提供してもらいました。いつも応援して下さる熱い方々に支えられています。

ー徐々に設備の面も整ったのですね。実際に集客面での成果はいかがでしたか?

集客のメインイベントをホーム開幕戦を設定しました。この試合が一番集まり392人。この日を境に内部と外部の環境がガラッと変わりました。ー年間を通すと合計3667人の集客になります

ー年間3000人以上の集客に成功したのですね。この取組で難しかったことはありますか?

自分が立てた仮説には集客することで、選手のパフォーマンスが向上して、結果もついてくると考えていました。しかし実際は2部降格を経験しました。一番集まった開幕戦も結果は1-1のドローでしたし、ここまでの活動をして試合に負けることに対してはあまり良くない反応もありました。

ー試合に足を運ばれたのはどのような人が多かったのですか?

多くは大学生でしたが、外部の人も来てくれた。年配の方だったり、訪問活動した小学生のサッカーチームの子達とかもチームで来たり、それまでの活動が実ったと思いました。大学生でもリピートしてくれる人もいて、結果がどうであれ来てくれる人が応援してくれた、次も見てくれるというのを感じました。

ー応援してくれる方々は大事ですよね。

そうですね。観客数は増えましたが、まだまだスポーツを観る文化には遠いと思います。しかし、ファンを構築して、いつも応援してくれるファンを何よりも大事にしたいと思いました。

ーしかし結果に結びつけることが難しかったと。環境が変わって選手も固くなってしまったのでしょうか?

あまりにも人が多くて、普段のプレーもできなかったとは言えます。クオリティーの高い選手はいて、実力的には申し分ないけど、それを発揮できなかった。十分戦える戦力ではあったのですが、選手自身も多くの観客の中でプレーするメンタルが整ってなかったと思います。やったからこそわかった経験ですね。

ーその後シーズンを通してどうでしたか?

試合数をこなすと徐々に慣れてきました。最後の一歩のところだったり、恥ずかしい試合を見せられない、いいプレーを見せたい、試合に出たいと選手は貪欲になりました。トップチームの中での競争も生まれて集客が色んな分野に影響を与えました。それは選手だけでなくマネージャーたちの意識も変わって、もっと他にできることがあるんじゃないかと模索しました。


【行動することで自信に繋がる】


ー活動を通して得たことは何かありますか?

スポーツ文化を根付かせることで、プロジェクトを通して批判もありましたが、一つの成果だと学びました。出る杭は打たれるではないけど、出る杭になれるのは成果だと思います。それが嫌なら、打つことが出来ないくらい結果を残して出ていけばいい。メンタル的なことも学びました。それからやはり、コミュニケーションの大切さ、サッカーチームを取り巻く人間関係を大事にすること。そのあたりも実践することで学ぶことが出来ました。

ー孫さんはもうじき卒業することになりますが、次の世代にはどう伝えていくのですか?

まさに今、継承する活動を行っていて、マーケティング部を開設に向けての勉強会を開いています。一回で10人前後集まって、サッカー部以外の人たちも参加してくれています。

しっかりとそのあたりも準備されていたのですね。孫さんは大学以外でも活動されていたそうですが、どのような活動をしていたのですか?

同期は優秀な人が多くて、一人でも多くの選手がサッカー続けて欲しいです。Jのクラブに練習参加するサポートをしたり、トレーニングのサポートしたり、プロフィール作ったりといろいろな面からです。これらの活動も、サポートをする場を提供してくれる方々のおかげで僕がそういう活動が出来ています。現時点でサッカー選手のサポートする能力はありませんが、実力をつけていきたいです。大学で出会った同期の人達、特にサッカーを続けていく人たちは、自分のことをしながらでもみんなを応援したい気持ちでいっぱいです。

ー長期的にはどのようなことをしたいと思っていますか?

選手のマネジメントやエージェント業、クラブチームの設立等色々とやりたい事は多いです。漠然としていますがゆくゆくはクラブチームを作れる人材になりたいですね。サッカーの本質とマネジメント、具体化できたサッカーチームを作りたいです。これまでの問題点を解決したチームにしたいですね。まだまだですが、卒業後はサッカー業界に踏み入れて、多くの人と知り合って、横のつながりを作りながら力をつけていきたいです。そしてこれからもサッカーを楽しんでいきたいと思います。

ー最後にメッセージをお願いします。

スポーツを発展させるために、「する」「みる」「支える」の3つの要素が大事だと伝えたいです。 自分はこのような活動や役割もなかったのですが、まずはやってみる大切さを学びました。  僕自身は能力ないし、頭も良いわけではない。とにかく経験するでここまで来ました。
これからも悩んだり、不安になったりすることもたくさんあると思いますが、そういう時こそ一歩でも前に進んでいけるよう努力していきます。

ー本日はありがとうございました。

行動をすることで一つ一つの問題を乗り越えてきた。将来サッカー界で働きたい人も多くいるはずだが、彼のように大学サッカーを盛り上げる活動を1から作り上げる行動と経験が必要になってくるはずだ。今後もサッカー界に貢献し続けるであろう孫勝基氏を応援していきたい。

【孫勝基(ソンスンギ)】

1996年5月21日生まれ(22歳)
兵庫県神戸市出身/朝鮮大学校サッカー部MG
Blog:https://lineblog.me/sungi0521/
Facebook:https://www.facebook.com/profile.php?id=100007931401869
Twitter:https://twitter.com/son_sungi?s=09

取材/執筆

【藤原】

Vektor代表
Twitter:@k0sk_vektor