「一度、生で見てほしい」現役高校生・岩野倖大が伝えたい、オートバイレースの魅力と現実


オートバイレースと聞いて、どんな景色を思い浮かべるだろうか。
高速で駆け抜けるマシン、響き渡る排気音、転倒や接触の危険と隣り合わせの世界。迫力はあっても、どこか自分とは遠いものとして捉えている人も多いかもしれない。

そんな競技の最前線に、高校生のうちから立ってきた選手がいる。岩野倖大さんだ。昨年まで全日本ロードレース選手権を戦い、今年は自ら一線を退く決断をした。その理由は、単に競技を諦めたからではない。むしろ、オートバイレースという競技そのものを、もっと多くの人に届くものにしたいという思いが強くなったからだ。

「やっぱり今の業界は、まだあまり盛り上がっていない。世界を目指しているライダーたちが、もっと挑戦しやすい環境にしていきたいんです」

年齢だけを聞けば驚く人も多いだろう。とても高校生の言葉とは思えなかった。彼の視野は競技全体の構造や、その先にいる若い選手たちの未来まで見据えている。

世界を目指す前に、まず越えなければいけない壁

オートバイレースは、競技の特性上、どうしても費用がかかる。車両本体はもちろん、遠征費、宿泊費、メンテナンス費用など、必要なお金は多い。その中でも特に大きいのがタイヤ代だという。

「タイヤは、一番パフォーマンスが高い状態が本当に数周で終わってしまうんです。予選と決勝で使うし、練習でも必要になる。1セットで4万円から6万円くらいかかるので、年間でかなり大きな負担になります」

年間で30セットほど使うこともあり、タイヤ代だけで100万円を超えることもあるという。さらに、全日本を1シーズン戦うとなると、岩野さん自身の感覚では年間600万円前後が一つの目安だった。

もちろん、チーム体制やサポート状況によって差はある。それでも、若い選手が挑戦していくにはあまりにも高いハードルだ。

しかも、その負担は選手個人にのしかかりやすい。かつてはスポンサーがつきやすい時代もあったが、今はそうではない。世界に通じる可能性を持った若手でも、まず挑戦を続けること自体が難しい。その構造に、岩野さんは強い危機感を持っている。

それでも走りたくなる理由がある

厳しい現実を聞くと、なぜそこまでして走るのかと疑問に思う人もいるかもしれない。だが、その問いに対する答えは、とてもまっすぐだった。

岩野さんがオートバイレースに憧れたのは5歳の頃。世界選手権を見て、「自分はこれをやりたい」と強く思ったという。もともと父親もレースに関わっており、自然とバイクに触れる環境があった。最初はモトクロスをしていたが、怪我をきっかけにロードレースへ転向した。

そして、レースを続ける中で特に強く心に残っているのは、優勝して戻ってきたときのチームの表情だという。

「帰ってきたときに、みんながすごく嬉しそうな顔をしてくれて。『よくやったな』って迎えてくれるのが、本当に嬉しかったんです」

オートバイレースは、外から見ると個人競技に見えやすい。けれど実際には、一人では成立しない。車両を整備する人、準備を支える人、レース現場を支える人がいて、ようやくライダーは走ることができる。だからこそ、そこにはチームで戦う感覚がある。

「サーキットに出れば自分と相手の勝負ですけど、その前の準備は本当に一人じゃできない。そういう意味では、チーム全員で戦っている競技だと思います」

この言葉を聞くと、オートバイレースの見え方が少し変わる。速さや危険性だけではなく、そこにある関係性や積み重ねまで含めて、この競技なのだと感じる。

魅力があるのに、届いていない

岩野さんが今、特に課題だと感じているのは「知られていないこと」だ。

オートバイレースは、好きな人は熱心に見てくれる。一方で、まったく知らない人が競技に触れる機会は驚くほど少ない。全日本レベルの選手でも、SNS発信は限られており、発信していたとしても、すでに知っている人たちに向けた内容にとどまりやすいという。

「レースを知らない人が、この世界に触れる機会が本当に少ないんです」

さらに、業界には“練習している姿をあまり見せたくない”という空気も残っている。ライバルに見られたくない、ラップタイムを知られたくない、そうした感覚は実際に自分も持っていたと話す。だから、発信の頻度がレース期間だけに偏る選手も少なくない。

ただ、その一方で、岩野さんは今になって思うこともある。

「練習している姿とか、普段の取り組みを出した方が良かったのかなとも思うんです」

学校の授業で「人はなぜ応援したくなるのか」を調べたとき、SNSで集まった声の多くは「努力している姿を見ると応援したくなる」だった。競技の裏側や日常の積み重ねこそ、応援のきっかけになる。そう考えると、発信は単なる宣伝ではなく、競技と人をつなぐ入口でもあるのだろう。

まずは一度、生で見てほしい

では、オートバイレースの魅力はどこにあるのか。
この問いへの答えも、岩野さんははっきりしていた。

「まず一回見てほしいです。本当にそれだけです」

時速300キロを超えるバイクを、生身の人間が操る。接触するのではないかと思うほどの接近戦の中で、それでも当たらず、転ばず、クリーンにバトルをする。そのレベルの高さと迫力は、映像だけでは伝わりきらないという。

実際、バイクは好きでもレースを見たことがなかった高校の友人に映像を見せたときには、「こんな世界があったんだ」と驚かれたそうだ。10人いたら全員とは言わないまでも、半分くらいは面白いと思ってくれる自信がある。それほどまでに、この競技には人を惹きつける力があるのだと岩野さんは言う。

オートバイレースは、日常の中で触れる機会が少ない。だからこそ、まず知ってもらうことが大事になる。地域のイベントで講演を行う予定があるのも、その第一歩だ。いきなり大きなことではなくても、まずは地元から、少しずつ広げていく。その発想はとても現実的で、同時に希望もある。

競技の魅力を伝えること。若い選手が挑戦しやすい環境をつくること。レースを知らない人と、この世界をつなぐこと。岩野さんが今やろうとしているのは、その全部だ。

オートバイレースは、危ない競技だと思われることもある。実際にリスクのある世界でもある。けれど、その一面だけで語ってしまうには、あまりにももったいない。

排気音、ガソリンの匂い、タイヤの匂い、張り詰めた空気、そして選手たちの駆け引き。
その場でしか伝わらない熱がある。

だからこそ、まずは一度、見てみてほしい。
そこから、知らなかった世界が始まるかもしれない。


岩野倖大さんセレクト!絶対に熱狂するおすすめレースは?

オートバイレースの魅力は、文章だけでは伝えきれない。少しでも興味を持った方に向けて、岩野さんに「まず見てほしいレース」を聞いた。最初の入口として、ぜひここから触れてみてほしい。

2017MotoGP オーストリアGP

「世界最高峰の超接近戦!世界一のライダーたちの駆け引きやバトルが見どころ!!」

Youtubeで動画を見る

2025年 全日本ロードレース選手権 第4戦 MOTEGI JSB1000 Race2

「1周目の各ライダーの位置取りが一番の見どころ!後半になって各ライダーの様々な戦術が出てくるのもおもしろいところです!」

Youtubeで動画を見る

 

 


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